公益財団法人 日本呼吸器財団:呼吸器疾患の病態解明・研究推進、啓発活動


公益財団法人 日本呼吸器財団
令和2年度研究助成のご報告

肺癌免疫療法における細胞傷害性CD4陽性T細胞に関する探索的研究:新たな免疫療法治療ターゲットの可能性

研究代表者 愛知県がんセンター 腫瘍免疫制御トランスレーショナルリサーチ分野・研修生 篠原 周一 先生

研究成果

本研究ではCD4陽性T細胞のうち、CTL機能を有するサブグループ(CD4CTL)を同定するべく研究を開始した。
我々は、以前、113例の肺癌症例から新鮮腫瘍検体をシングルセル化し、凍結保存した新鮮腫瘍単離細胞(fresh tumor digest: FTD)を取得し、そこから抽出したDNAとRNAから微小免疫環境を解析し腫瘍検体中のCD4と細胞障害活性スコア(cytolytic activity score)を算出した。本研究ではi)CD4 と細胞障害活性スコアが高値、ii) single nucleotide variant>50、iii)FTDが十分量が確保された検体であることを条件とし、2症例(LK004, 138)を選定した。
まず上記2症例からCD3陽性細胞をFlow cytometryによるsortingで回収し、10X Genomics Chromium (10X Genomics, Pleasanton, CA)を使用し、CD3陽性リンパ球のシングルセル解析を行った。シングルセルの解析においてCD8陽性細胞ではGZMBやPRFなどの細胞障害性サイトカインが高値、かつCD273(PD-1)やHAVCR2などの疲弊化マーカーが陽性であるexhausted subgroup(Tex)とprecursor exhausted subgroup (Tpex)を同定した。CD4陽性細胞のサブグループは、GZMA, GZMB, PRF, GNLY, TNFRSF4が高値であるCD4CTLと思われるclusterを同定した。興味深いことに、CD4CTLの割合はLK004で3.1%, LK138で12.3%(P= 0.036)と後者で有意に高かった。CD4CTLの割合の違いに寄与する因子は明らかにされなかったが、検体ごとに腫瘍免疫微小環境が異なっていることが示唆された。さらにTCRレパトア解析を実施したところ、diversityをあらわすshannon IndexとSimpson scoreはCD4CTLで低く、クローナリティの高い集団であることが明らかになった。さらに、CD4CTLと共通するTCRの分布について検討したところ、CD4ではmemory likeな細胞集団と共通したTCRを持つ傾向が示唆された。さらに興味深いことに、CD3陽性細胞全体で解析を行ったところ、CD4CTLとCD8Tpexにおいてoverlap率が0.239と高値であり、CD8TpexとCD4CTLの何らかのクロスオーバーが示唆された。今後、CD8TpexとCD4CTLのクラスターの相互作用について、さらに深く解析を行い、CD4CTLの腫瘍免疫における役割を明らかにしていきたい。


第63回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

がん免疫療法は免疫チェックポイント阻害薬の登場により、進行肺癌のkeyとなる治療になりました。しかし、その恩恵を享受できるのは全体の約20%にすぎず、さらなる有効な治療の開発が求められております。本研究はがん免疫の主役と位置付けられるCD8陽性リンパ球ではなく、CD4陽性リンパ球に注目することで、新たな治療のターゲットを探索することを目的としております。近年、続々とCD4陽性ヘルパー細胞の役割が明らかになってきており、MHC class IIのネオアンチゲンなどが重要になると報告されておりますが、CD4陽性キラーT細胞の機能については未だ不明な点が多く、治療標的となる可能性を秘めております。本研究により、CD4キラー細胞の機能を解明し、CD4陽性リンパ球やMHC class IIをターゲットとする新たな治療の可能性を探り、肺癌治療成績を向上すべく、貴財団から頂ける助成を基に一意専心に取り組ませて頂きたいと考えております。

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