公益財団法人 日本呼吸器財団:呼吸器疾患の病態解明・研究推進、啓発活動


公益財団法人 日本呼吸器財団
平成29年度研究助成のご報告

トランスオミクスによる呼吸器疾患の病態解明と治療法開発

研究代表者 大阪大学大学院医学系研究科呼吸器/免疫内科学部 講師 武田 吉人 先生

研究成果

生体内のすべての反応は、タンパク質とその化学修飾や代謝産物などを含む膨大な種類の分子相互作用により制御されている。生体反応のメカニズムの全貌を解明するには、特定の分子を計測する従来のアプローチでは限界があり、これら分子の動態を偏りなく網羅的に定量計測する新しいアプローチが必要とされる。特に、生活習慣病などの多因子疾患(慢性炎症性疾患)は、個々の遺伝子や分子の異常と捉えるよりも、分子ネットワークの破綻として捉えるほうが妥当である。
近年、次世代シークエンサーや質量分析器などの技術の飛躍的な進歩により、ゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボロームなどの網羅的解析(オミクス)によるビッグデータから生命現象の全体像を捉えることも夢ではい。このようなマルチオミックスの観点から創薬標的の網羅的探索が可能になれば、より特異的・効率的に創薬標的を同定することが求められる。しかし、そのためには、これら複数のオミックスを統合するシステムの解析(トランスオミクス)が不可欠である。これら膨大なオミックスデータを統合して理解する研究手法(トランスオミクス)の開発には、各種オミクス計測に卓越した研究者と情報・数理系研究者が密に連携した研究体制の確立が急務とされる。さらに、このようなマルチオミックスの手法は、病態解明のみならず、個別化医療へつなげるための重要な手法となると考えられる。
2012年からエクソソームの種々の単離法(抗体法, 超遠心、研究協力者が開発したEV second)と検証(電子顕微鏡, qNano)を確立している3)。喘息モデルとして標準とされるOVA誘導性喘息モデルを、疾患コントロール(COPD)と比較することで、疾患特異的なBM探索に挑戦する。末梢血由来エクソソームを、ノンラベル・定量プロテオミクス(Linear Trap Quadropole (LTQ) Orbitrap Velos Mass Spectrometry)により解析する。本手法を用いることで、純粋かつ短時間で単離したエクソソームから、750種類の蛋白同定に成功した。
本解析により喘息特異的なBM(増加群)を142種類、COPD特異的なBMを109種類、COPDと喘息共通のBMを85種類同定することに成功した。喘息における好酸球浸潤は、喘息の活動性(過敏性、可逆性)を最も鋭敏に表すと考えられるものの、ダイレクトに定量する方法はなく、呼気NOが代用マーカーとして汎用される。そこで病理解析により喘息モデル肺における好酸球浸潤とエクソソームにおけるタンパクとの相関を検討したところ、68種類のBMは、肺局所における好酸球浸潤と相関を認めるものであった(r>0.7, r<-0.7)。なかでも、細胞外基質であるタンパクXは、気管支喘息患者の気道周囲における発現増加(リモデリング)が報告され、気管支喘息における難治化やリモデリングの指標になりうる。
本成果を受けて、種々の炎症性呼吸器疾患や難病患者における新規バイオマーカーを検証にも取り組み、ヒトにおける有用性も実証した。オミクスにおける最難関のプロテオミクスのハードルを、次世代プロテオミクスとエクソソームによりクリアーしたため、多階層にわたるビッグデータの解析にオリジナルソフト:TargetMineにより展開予定である。


受賞コメント

近年、次世代シークエンサーや質量分析機の進展により,さまざまなレベルのオミクス情報を網羅的体系的に取得できるようになってきた.これらの多階層にわたるオミクスデータについて、階層縦断的に結合させて生体システムを解析する『トランスオミクス』 は益々注目される。本研究成果が、その一助となれば幸いである。この受賞を励みに、臨床応用可能な知見が得られるように、一層精進していきたいと思います。

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