公益財団法人 日本呼吸器財団:呼吸器疾患の病態解明・研究推進、啓発活動


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COVID-19関連研究助成のご報告

日本人におけるSARS-CoV2ワクチンによる獲得免疫応答の包括的解析

研究者 順天堂大学医学部 免疫学講座・准教授 千葉 麻子 先生

研究成果

SARS-CoV-2 mRNAワクチンによる免疫応答は抗体値により評価することが一般的である。抗体はウィルスの細胞への侵入を阻害するが、T細胞はB細胞の抗体産生細胞への分化誘導や貪食細胞の活性化などを介し、重要な細胞性免疫応答を担う。そのため、本研究は、SARS-CoV-2 mRNAワクチンによる獲得免疫応答について、抗体に加えてBおよびT細胞の免疫記憶状態を包括的に解析し、年齢や性別による影響についても検証を行なった。
20-79歳の男女、計89名を対象とし、BNT162b2(Pfizer/BioNTech)ワクチンの接種前、2回接種後1週、2および6ヶ月、3回目(ブースター)ワクチン接種後2ヶ月の血液を採取し、スパイク特異的な抗体およびメモリーB細胞、CD4TおよびCD8T細胞、また抗体応答に関わる濾胞ヘルパーTおよび末梢ヘルパーT細胞の反応について評価を行なった。2回のワクチン接種により、全例でスパイクに対する抗体、B細胞およびT細胞が誘導された。年齢とともに抗体応答は低下する傾向が見られ、特に男性で顕著であった。濾胞ヘルパーT細胞応答は年齢とともに減弱したが、末梢ヘルパーT細胞応答の年齢による低下は女性では見られなかったことから、男性では末梢ヘルパーT細胞反応の減弱が、加齢に伴う抗体応答の低下の一因となることが推察された。ワクチン接種からの時間の経過と共に抗体値は大きく低下したが、T細胞応答の減弱は軽度であった。一方、メモリーB細胞は減少することなく、むしろ6ヶ月後には増加した。ブースター接種によりメモリーB細胞および抗体は大きく増加したが、CD4T細胞の反応は僅かであり、CD8T細胞の増加は見られなかった。また、ブースターに対する抗体応答は、早期のCD4T細胞の応答と正の相関を示すことが明らかとなった。変異株スパイクに対するT細胞は2回のワクチンにより誘導されたが、抗体の中和能はほとんど見られず、ブースターワクチンにより誘導された。変異株スパイクに対するメモリーB細胞も、ブースター後に初めて誘導された。
以上の結果より、今後のワクチン戦略においては、抗体に加えて細胞性免疫応答の評価も行うこと、また年齢や性別を含めた検討が重要であることが示された。また早期のCD4T細胞の応答から、ブースター後の抗体応答の強さを推測できる可能性も明らかとなった。


受賞コメント

新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチンの有効性は世界的に示されています。しかし、ワクチン接種により誘導される免疫記憶はどの程度の期間継続するのか、変異株SARS-CoV-2に対する獲得免疫応答は十分得られるのか、さらには免疫抑制剤治療中でも免疫記憶は十分に誘導されるのか、など多くの問いが残っています。ワクチン接種により誘導された抗体はウィルスの細胞への侵入を阻害します。一方、T細胞はB細胞の抗体産生細胞への分化誘導、および貪食細胞の活性化や感染細胞の傷害を介して感染制御において重要な細胞性免疫応答を担います。そのためワクチン接種による獲得免疫を評価するには、抗体に加えT細胞の免疫応答を調べることが重要となります。本研究は、SARS-CoV-2ワクチン接種により誘導される免疫記憶を包括的に解析することにより、今後のワクチン戦略や感染予防に重要な情報を得ることを目標としています。

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