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研究代表者 昭和大学医学部・リウマチ膠原病内科 研究生 城下 彰宏 先生
本プロジェクトでは、グリーンスペースと呼吸器疾患の発症リスクとの関連を評価した。グリーンスペースは、大気汚染の改善を含む多様な側面から、呼吸器疾患の予防に寄与する可能性が期待されていた。本プロジェクトの成果として、合計4本の論文を国際誌に発表し(さらに2本査読中)することができた。
まず、大気汚染物質への複合的な曝露が小児喘息の発症と関連することを明らかにした。日本では大気汚染物質の濃度が改善傾向にあるものの、低濃度であっても複数の汚染物質に同時に曝露されることで、小児喘息のリスクが増加する可能性が示唆された。
Shiroshita A, et al. Joint associations of air pollutants during pregnancy, infancy, and childhood with childhood persistent asthma: Nationwide database study in Japan. Ecotoxicol Environ Saf. 2024 Aug;281:116626. doi: 10.1016/j.ecoenv.2024.116626.
さらに、妊娠中におけるグリーンスペースの増加が、大気汚染物質濃度の低下および小児肺炎のリスク低下と関連していることが明らかとなり、都市環境の整備が呼吸器感染症の予防に寄与しうることが示された。
Shiroshita A, et al. Prenatal exposure to greenness and early childhood pneumonia: a nationwide study in Japan. Eur Respir J. 2025 Mar 6;65(3):2402181. doi: 10.1183/13993003.02181-2024.
一方で、グリーンスペースの増加が小児喘息の発症リスクの上昇と関連することも示され、この影響は主に花粉以外の要因による可能性が高いことが示唆された。
Shiroshita A, et al. Pollen as a mediator between environmental greenness during pregnancy and infancy periods and childhood persistent asthma: A nationwide retrospective birth cohort study in Japan. Environ Pollut. 2024 Dec 15;363(Pt 1):125039. doi: 10.1016/j.envpol.2024.125039.
グリーンスペースが小児肺炎と小児喘息に及ぼす影響に違いが見られたことから、今後は生物多様性との関連や、人工的なグリーンと自然のグリーンの効果の違いを検討する必要がある。これらの結果に基づいた研究成果は、現在、Environmental Health Perspectives および Scientific Reports にそれぞれ査読中である。生物多様性は非常に複雑に関与しており、両生類や淡水魚が生息できる環境が小児喘息の発症リスク低下にかかわっていることが示唆された。また、人工的なグリーンは小児喘息の発症リスク増加に、自然のグリーンは小児喘息の発症リスク低下に関与していることが結果として得られた。本プロジェクトを支えてくださった呼吸器財団の皆様に心より感謝申し上げます。
日本人の90%以上が都市部で生活しているとされる一方で、世界的にみて、都心部のグリーンスペースが少ない傾向にあります。そのため、日本における効果検証が必要ですが、介入研究の難しさや交絡因子の存在からグリーンスペースの効果を評価することの困難さがあります。本研究では、JMDCの縦断的データーベースを使用して、最新の疫学手法や機械学習モデルを用いて、各地域のグリーンスペースの経時的な増減と呼吸器疾患発症の推移との相関関係を評価します。さらに、グリーンスペースが呼吸器疾患予防に関わるメカニズムの解明も目的としています。大気汚染物質の濃度の低下や精神的ストレスの軽減、放射による気温の低下などを媒介して及ぼす効果を定量化する予定です。さらに都市化が進み、建物が増えていくことが予想される日本においてグリーンスペースのもつ影響を評価することは今後の都市開発において非常に重要であると考えられます。