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研究代表者 大阪公立大学医学研究科・呼吸器内科 病院講師 宮本 篤志 先生
第一段階として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の日々の症状と身体活動性の関連を調べた。研究用のスマートフォンアプリで症状を記録する日誌とEXACT(COPDの急性増悪を判定するための標準化された電子的患者報告アウトカム(ePRO))を毎日入力させ、3軸加速度計で最大3か月間身体活動性を取得した。16名中14名が4週間以上アプリを継続でき、入力完遂率は日誌、EXACTそれぞれ、78.8 ± 21.4%、76.9 ± 21.2%(平均 ± 標準偏差)であった。混合効果モデルで解析したところ、平常時は症状の強さ(EXACTのER-S total score)と中高強度身体活動時間に弱い正の関係があったが、急性増悪期にはその関係が逆転した。すなわち、増悪期には身体活動性の増加は期待しがたい一方、非増悪期では症状が強くなっても身体活動性増加の余地があることが示唆された。しかし、EXACTで判定される急性増悪は症状に基づく所謂 ”unreported exacerbation” に相当するため、身体活動性の介入を安全に行うには病勢を判定する客観的指標が望まれるということが分かった。
次に、腕時計型ウェアラブルデバイスで生体データを取得し症状や活動性との関連を探索する研究を行った。現時点で11名のCOPD患者が参加し、ウェアラブルデバイスを1日の60, 80%を超えて装着した日の割合はそれぞれ93.1 ± 8.9%、90.2 ± 16.2%(平均 ± 標準偏差)とePROよりもデータ取得率が良好であった。EXACT判定の急性増悪は1例1回のみと症状スコアの変動が少ない集団であったものの、心拍変動の指標であるSDNNと症状スコアとの間に負の関係の傾向(p = 0.091)が見られ、さらにSDNNと身体活動性指標に有意な関係性が認められた。ウェアラブルデバイスで取得できる生体データは、症状や身体活動性の変動を客観的に示す新たなバイオマーカーとなることが期待される。今後症例数を集積し、各種パラメーター同士の関係性やベースラインの特性との関連について研究を発展させていく予定である。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さんは身体活動性が低下しており、低い身体活動性は生命予後の悪化や急性増悪による入院リスクと関係していることが報告されています。そのため、身体活動性の向上はCOPD診療において近年最も注目される治療標的のひとつですが、どのような介入方法が最適かは十分に分かっていません。COPD患者さんの臨床特性や症状の変化の仕方は重症度や併存症によって差違があり、最適な身体活動も患者さんごとあるいはその日の状態ごとに変化する可能性が考えられます。本研究では継続性・簡便性に有利なウェアラブルデバイスを用いて歩数や生体データ等のデジタルバイオマーカーを取得し、従来の身体活動性指標との関連を調べる事によってCOPDの身体活動性についてより質の高いモニタリングや介入の指標を見いだす予定です。身体活動性の個別化・最適化された介入戦略の構築に貢献できればと考えております。