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研究代表者 京都大学大学院医学研究科・呼吸器内科 特定助教 村瀬 公彦 先生
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病をはじめとした様々な疾患の発症・増悪に影響を与えることが知られている。本プロジェクトでは、滋賀県長浜市に在住する一般住民約7,000人を背景とする大規模コホートである「ながはまコホート」においてSASと他疾患との関係を横断的かつ縦断的に明らかにすることを目的とした。
まず、ウェアラブル機器を用いて取得された睡眠データを用い、SASの重症度と血中ヘモグロビン濃度の関係を横断的に検討した。SASは多血症の危険因子とされているが、本検討では閉経後女性・男性の群では両者には関連が見られず、閉経前女性においてSASが重症になるほど貧血が重度になることが示された。若年女性ではSASの有病率は低いものの、若年女性にSASが認められた場合には、貧血を積極的に検査する必要が示唆される結果となった。
また、SASが骨粗しょう症に与える影響も横断的に検討した。SASに関する指標は、超音波にて評価した踵骨の骨量とは有意な相関は認められなかったものの、閉経後女性および男性において夜間の排尿回数が増加するほど骨量が減少しており、夜間排尿回数の増加は骨量の減少を介して骨折のリスクを上昇させている可能性が示された。
さらに、ながはまコホートにおいては、2012-2016年および2017-2023年において縦断的に睡眠に関するデータが取得された。一般人口においては、5年間の経過において、SASの重症度を示す3%酸素飽和度低下指数については、統計的には有意に上昇を認めたが臨床的にはその変化は大きいものではなかった。(8.8 (5.6-13.8)/h から 9.1 (5.8-14.8), p<0.001)。しかし、もともとSASの重症度・肥満・高齢は5年後の中等症以上のSASの有病率と独立して有意に相関しており、これらの条件を満たす個人においては、継続的にSASのスクリーニングを実施することが必要と考えられた。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、日本人の10人に1人が罹患しているとも言われる、非常に罹患率の高い疾患です。また、SASは高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症や増悪のリスクとなることが知られていますが、その詳細なメカニズムはわかっていません。私たちはこれまで、約一万人の大規模コホートで睡眠に関する詳細なデータを採取し、SASと生活習慣病の関わりを明らかにしてきました。そして、これらの研究結果から、SASは代謝変容を介して生活習慣病に影響を与えていると考えるようになりました。この研究では、メタボロミクスを主とした多層オミックス解析からSASがどのような機序で代謝変容を起こし、生活習慣病の発症・増悪に寄与しているかを明らかにしたいと思っています。