公益財団法人 日本呼吸器財団
令和5年度研究助成のご報告

悪性胸膜中皮腫の新規研究モデル開発と分子病態解明

研究代表者 慶應義塾大学医学部・呼吸器内科 准教授 安田 浩之 先生

研究成果

悪性胸膜中皮腫は罹患率1/10万人未満の希少疾患である。また、進行期患者の5年生存率は10%以下であり極めて予後不良の疾患でもある。今後患者数の増加が予想されているが、現在まで十分な病態解明・治療法開発が進んでいない。病態解明が進まない原因の一つとして、研究を効率的に進めるための研究モデルが限られることが挙げられる。
本研究では、悪性胸膜中皮腫領域における効率的研究モデルを構築するため、患者由来悪性胸膜中皮腫オルガノイドライブラリー構築を行った。患者から書面での同意を取得後、手術や胸水検体等の余剰検体を使用しオルガノイドを樹立した。
病理学的検討では、オルガノイドが患者由来の組織検体と同様な形態を有していること、WT1やpodoplaninといった悪性胸膜中皮腫における特徴的なタンパク発現を有していることなどを確認した。また、樹立した悪性胸膜中皮腫オルガノイドにおけるゲノム異常を確認するため、11ラインに対して全エクソーム解析を行った。その結果、既報で報告されているゲノム異常(CDKN2A/B loss, BAP1, NF2 mutation等)を悪性胸膜中皮腫オルガノイドでも確認した。
悪性胸膜中皮腫における遺伝子発現プロファイルを明らかにするためRNAシークエンスを行った。その結果、肺癌とは異なる遺伝子発現プロファイルを認め、悪性胸膜中皮腫で特異的に上昇する遺伝子群を明らかにした。 悪性胸膜中皮腫における有効な薬剤を探索するため、樹立した4ラインの悪性胸膜中皮腫オルガノイドに対して、既存薬(1926種類のキナーゼ阻害薬)を用いたhigh throughput screeningを行った。一次スクリーニングでは、悪性胸膜中皮腫に有効である可能性がある薬剤として10種類の薬剤がリストアップされた。二次スクリーニングでは、それら10種類の薬剤のうち6薬剤が有効である可能性があると判断された。現在、これら6種類の薬剤の中で特に有効であると思われるものに対して、in vivo実験での検証を進めている。


受賞コメント

悪性胸膜中皮腫は予後不良の希少疾患です。今後患者数増加が予想されていますが、現在まで十分な病態解明・治療法開発が進んでいません。
本研究では、悪性胸膜中皮腫の病態を分子レベルで理解し、新たな治療戦略を開発するため、患者由来悪性胸膜中皮腫オルガノイドを用いた新たな研究モデルの開発を行います。効率的な悪性胸膜中皮腫オルガノイド樹立方法を開発するとともに、樹立したオルガノイドに対するゲノム・エピゲノム解析を行い、悪性胸膜中皮腫の分子異常を詳細に把握します。また、悪性胸膜中皮腫細胞が増殖する上で依存するシグナルを見つけるとともに、そこから新たな治療標的の同定を目指します。本研究を通して、新たな研究モデルを提案するとともに、悪性胸膜中皮腫の病態理解を深め、治療成績向上に貢献する知識の取得を目指します。