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研究代表者 千葉大学大学院医学研究院・呼吸器内科学 特任講師 鈴木 敏夫 先生
肺癌微小環境を意識した治療戦略開発のためには、tumoroidから高精細度の癌オルガノイドへの革新が必須となると考えられるが、肺オルガノイドの樹立自体がごく近年に達成された技術革新であり、その肺癌領域への応用はまだ遅れているのが実情である。今回、我々はHiLung株式会社と共同で、iPS細胞由来健常肺胞オルガノイドをベースに、その上皮細胞の一部を患者由来肺癌細胞と置換することで患者元組織に類似した組織像を示す肺癌オルガノイドの樹立に成功した。この肺癌オルガノイドの空間オミックス解析によって癌細胞-線維芽細胞相互作用、癌細胞-非癌上皮細胞相互作用を時空間的に定量化することが可能となった。
PC9を利用して作成したEGFR変異肺癌オルガノイドを用いて、erlotinibによる治療介入群を作成し、EGFR二次変異に基づかないdrug tolerant persisterオルガノイドモデルを作成した。本オルガノイドの解析によって、erlotinib治療介入前より遺伝子発現に基づくクラスターが4つ描出され、そのうちの2つのクラスターがerlotinibによる治療介入により減少し、残る2つが増加することが明かになった。興味深いことに、増加した癌細胞クラスターの中で、特に増加著しいクラスターについては、そのcell neighborhood analysesによって線維芽細胞が特に多く配置していることが明かになった。線維芽細胞のエンドタイプに介入を行うことでerlotinibの薬効が変化することも確認した。
がんゲノムパネル検査が本邦でも実装されましたが、プレシジョン・メディスンの恩恵を受ける癌患者を劇的に増加させるためには、現行の遺伝子パネル検査やコンパニオン診断薬に加えて、より機能性やフェノタイプに直結した層別化あるいは薬効予測を可能にするシステム開発も必要であると痛感しております。具体的には、癌ニッチ環境およびtumor heterogeneityを反映した癌オルガノイドが開発されることで、① 特にniche環境とのinteractionに関わるメカニズムに注目した疾患層別化マーカーの探索と臨床検体を用いた検証、② 既存薬あるいは治験薬を用いた薬効評価と実際の臨床薬効データとの照合による予測性検証が可能になると考えています。本研究では、がん間質を伴うフェノタイプを体外で再現する「肺癌微小環境再現性オルガノイドシステム」の開発をHiLung株式会社と目指して行く予定です。