公益財団法人 日本呼吸器財団
令和4年度研究助成のご報告

新規病原性肺胞マクロファージに着目したCOPDの炎症病態解明

研究代表者 東北大学病院・呼吸器内科病院講師 藤野 直也 先生

研究成果

COPDでは肺胞マクロファージ(AM)の機能異常により炎症が遷延することが知られている。我々は、インフルエンザ桿菌のシアル酸を認識するSiglec-1の発現が低下しているAMのサブセットを見いだしていたが、このサブセットの選択的マーカーは不明だった。本研究では1細胞RNAシークエンス(scRNA-seq)により網羅的なアプローチ、および、Siglec-1発現別のAMサブセットのbulk RNA-seq解析による仮説に基づいたアプローチの両方から、AMサブセットのマーカーの決定を試みた。
まず、scRNA-seqにてCOPD肺のAMにおける炎症性サブセットを探索した。COPD患者4名の非癌肺組織から単一細胞懸濁液を作成し、scRNA-seq(10x Genomics)を行った。Louvain法によりサブクラスターを同定しpathway解析を行った。COPD肺由来AMは10のサブクラスターに分類できた。Cluster6では,他のサブクラスターに比較しケモタキシス(CCL2,CCL5,CCR5),TLRs/NF-κB pathway(TLR1,TLR2,TLR4,NFKB1,RELA),IL-6 pathway(IL6R,JAK1,JAK2,STAT3),プロテアーゼ(MMP2)を含む広範な炎症関連遺伝子の発現が亢進していた。Cluster6の選択的マーカーはCCR5だった。Cluster6には炎症関連遺伝子が濃縮しておりその選択的マーカーはCCR5と考えられた。
次に、Siglec-1発現別のAMのbulk RNA-seqから選択的マーカーの同定を試みた。肺癌のために肺葉切除を行ったCOPD患者の非癌肺組織から単一細胞懸濁液を作成した。フローサイトメトリー (FCM) を用いCD45+CD14−CD206+細胞としてAMを同定した。Siglec-1−SSCloFSCloAMの選択的マーカー抽出のため、RNA-seq解析を行いFCMにて細胞表面蛋白発現を検証した。マーカー陽性AMと呼吸機能との相関を検討した。7名のCOPD患者由来肺組織を解析した。RNA-seq解析からSiglec-1−SSCloFSCloAMの選択的マーカー候補としてCCR2,CCR5,CCR6,CCR7,CD1A,CD1C,CD80,IL6Rを同定した。FCM解析よりSiglec-1−SSCloFSCloAMにおけるCCR5陽性の割合が最も高く94.8±7.5 %(mean±SD)であり%FEV1と負の相関を示した(ピアソン相関係数=-0.76,P=0.048)。
上記より、CCR5はSiglec-1−SSCloFSCloAMの選択的マーカーとなる可能性があり、COPD患者におけるCCR5+Siglec-1-AMの増加は重症度と相関することを明らかにした。


受賞コメント

慢性閉塞性肺疾患 (COPD) は、罹患率が高く、また世界的には死亡率も高い難治性呼吸器疾患です。ウイルス感染などを契機とした増悪とよばれる病態を反復することで、経年的に呼吸機能が低下していくことが知られています。肺には30種類を超える種々の細胞種が存在しており、お互いに協調しながら肺の恒常性維持に寄与しています。肺胞マクロファージは、肺胞内に存在する貪食細胞で、病原微生物等の排除、肺胞サーファクタントの維持などに自然免疫系に関与する細胞です。さらに、T細胞との相互作用を介した獲得免疫の調整、肺胞上皮細胞や線維芽細胞との相互作用による肺構築細胞の機能制御およびリモデリングにも関わる多様な役割を担う細胞です。本研究では、COPDの炎症病態における肺胞マクロファージの機能解析を進めていく予定です。