公益財団法人 日本呼吸器財団
令和4年度研究助成のご報告

線毛機能障害に着目した肥満における新型コロナウイルス感染症の重症化機序の解明

研究代表者 浜松医科大学・内科学第二講座助教 藤澤 朋幸 先生

研究成果

本研究は、「肥満により惹起される気道の線毛機能障害」に着目して、肥満におけるCOVID-19の重症化機序を解明することを目的とした。
肥満による線毛機能障害を同定すべく、K18-hACE2 Tgマウスに高脂肪食を摂取させ肥満モデルマウスを作成し、気管組織培養と線毛運動のイメージング解析を用いて、線毛輸送能・線毛打頻度(ciliary beat frequency: CBF)を測定し、コントロールマウスと比較解析した。その結果、肥満マウスではコントロールと比較して、線毛輸送能・CBFは有意に低下していた。次に、SARS-CoV2感染時における線毛機能の変化を解析した。コントロールマウスでは、SARS-CoV2感染により線毛輸送能・CBFはいずれも増加した一方で、肥満マウスではSARS-CoV2感染による流体移動速度・CBFの増加は消失した。以上より、肥満マウスでは、気道上皮の線毛機能が障害され、さらに、ウイルス感染時における線毛機能促進作用が減弱していることが明らかとなった。
細胞外ATPは線毛運動を促進することが知られている。肥満における線毛機能障害の機序を解析すべく、コントロールマウス、肥満マウスにおいて、インフルエンザAウイルス(IAV)感染時の気管組織培養上清中のATP濃度を測定した。コントロールではIAV感染60分後に培養上清中ATP濃度は有意に増加したが、肥満マウスではATP濃度の増加はみられなかった。一方、コントロールマウス、肥満マウスのいずれも、培養液中へのATP添加により、線毛輸送能・CBFは増加した。以上より、肥満マウスでは、気道上皮の細胞外ATP放出が障害されるため、IAV感染時の線毛機能促進作用が消失することが示唆された。
次に、コントロールマウスと肥満モデルマウスの気道上皮における線毛構成遺伝子発現の相違につき、RNA-seqならびにreal-time PCRを用いて解析した。その結果、肥満マウスではコントロールと比較して Armc4, Dnal1, Dnah1, Ulk4, Cep164, Rsph4aの有意な発現低下が確認された。
以上より、肥満では、線毛関連遺伝子発現の低下と細胞外ATP放出の障害により、定常状態ならびにウイルス感染時における線毛機能が障害され、その結果、気道外へのウイルス排泄が遅延して感染の重症化を来すことが示唆された。


受賞コメント

全世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において,肥満は極めて重要な重症化リスク因子となるため、その機序を見出して重症化の制御法を開発することは臨床的に大きな課題です.気道の線毛輸送系は,侵入した病原体を体外に排出する機構で,呼吸器感染症に対する第一線の生体防御を担います.私達はこれまで、インフルエンザウイルス感染は気道の線毛運動を促進することを見出し報告しました。本研究では,この“線毛輸送系”に着目して、肥満に起因する線毛機能障害とそれ基づくCOVID-19重症化機序を解明することを目的とします.肥満マウスを用いて気管線毛の超微細構造の変化を解析し、さらに肥満によるSARS-CoV2感染時の線毛機能応答の減弱機序を明らかにします.“肥満による線毛機能障害”という独創的な視点から、肥満患者におけるCOVID-19重症化のメカニズムを明らかにしたいと考えています.