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研究代表者 新潟大学医歯学総合病院 呼吸器/感染症内科・特任助教 穂苅 諭 先生
我々は、肺癌におけるTTF-1の多面的な役割を調べることで分化・進展機構を明らかにし、治療反応性の予測や薬剤耐性機序の解明を目標に研究に取り組んだ。下記2項目に分けて成果を記載する。
①EGFR遺伝子変異陽性(EGFR-m)肺腺癌における役割
【目的】EGFR-m肺腺癌におけるTTF-1の機能は十分明らかになっていないため、上皮間葉転換(EMT)への関与に注目してTTF-1の機能を解析した。
【方法】EGFR-m及びKRAS変異陽性(KRAS-m)肺腺癌細胞でTGF-を用いたEMT誘導を行いTTF-1発現による差異を検討した。また、EGFR-m細胞のオシメルチニブ耐性株の網羅的遺伝子発現データを取得し、薬剤耐性化への影響を解析した。
【結果】TGF-刺激により、KRAS-m細胞ではTTF-1低発現株で10.0倍、逆にEGFR-m細胞ではTTF-1高発現株で4.1倍のEMTマーカーの発現誘導が認められた。オシメルチニブ耐性EGFR-m細胞において、TTF-1高発現株では薬剤耐性化に伴ってEMTに関連する遺伝子群が最も高くエンリッチしていた。
【結語】TTF-1はEGFR-m肺腺癌細胞においてEMTに関連した薬剤耐性化に関与している可能性がある。
②肺腺癌微小環境における役割
【目的】TTF-1の腫瘍免疫への影響は明らかでないため、TTF-1陽性肺腺癌におけるPD-L1の発現制御とその機能を検討した。
【方法】肺腺癌の遺伝子発現データや病理組織を用いてTTF-1とPD-L1発現の相関を調べ、肺腺癌細胞のTTF-1およびPD-L1過剰発現株・ノックダウン(KD)株を作成して網羅的遺伝子発現変動や細胞機能を解析し、TTF-1のゲノム結合領域も検討した。また、臨床におけるPD-1阻害薬の治療効果との関連も調査した。
【結果】肺腺癌においてTTF-1とPD-L1は発現に正の相関関係がみられた。肺腺癌細胞ではPD-L1ゲノム領域にTTF-1の結合が認められ、TTF-1がPD-L1発現を正に制御していた。PD-L1は細胞増殖能・浸潤能・遊走能を促進させており、PD-L1遺伝子導入やKDによりEMTに関連した遺伝子群の発現変動が認められた。TTF-1・PD-L1とも陽性の肺腺癌は免疫療法の有意な奏効が得られていた。
【結語】TTF-1はPD-L1を介して免疫抑制的に働く可能性がある。
進行非小細胞肺癌の3~4割を占めるEGFR遺伝子変異陽性肺癌は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の登場により治療成績が大きく改善しましたが、EGFR-TKIへの耐性化が課題となっています。特に、小細胞肺癌への形質転換による耐性例の治療法は確立されていません。我々は、肺組織特異的に発現するホメオボックス蛋白であるTTF-1に注目して研究を行っており、TTF-1が肺腺癌だけでなく小細胞肺癌にも高率に発現し、神経内分泌分化に働くことを明らかにしています。本研究では、「TTF-1がEGFR遺伝子変異陽性肺癌の形質転換による耐性獲得に寄与しているのではないか?」との仮説を立て、その分子メカニズムの解明を目的とします。本研究助成金を有効に活用し、TTF-1に着目した網羅的ゲノム解析を行って参ります。本研究の遂行により進行期肺癌の治療成績のさらなる向上に貢献したいと考えております。