公益財団法人 日本呼吸器財団
令和3年度研究助成のご報告

難治性喘息におけるステロイド抵抗性の病態解析

研究代表者 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 呼吸器内科学・教授 井上 博雅 先生

研究成果

抗炎症効果をもつステロイド薬は気管支喘息治療のキードラッグである。吸入ステロイド薬の普及は喘息コントロールの改善に大きく寄与して来たが、一部に吸入ステロイド薬に抵抗性の重症喘息患者が存在する。2型自然リンパ球(ILC2)は、大量のIL-5やIL-13を産生し、喘息病態に関与していることが示唆されている。TSLPの作用により、またTL1AとTSLPとの相互作用がILC2のステロイド抵抗性に関与することが報告されている。本研究は、ヒトILC2のステロイド抵抗性の機序を明らかにすることを目的とした。
当初の研究計画通り、喘息患者および健常者由来の末梢血単核球よりILC2を単離した。単離したILC2に各種サイトカイン(IL-33、TSLP、TL1A等)を添加し、IL-5産生をILC2活性化の指標とした。ILC2をこれらのサイトカインで刺激すると培養液上清中のIL-5濃度の上昇を認めた。このIL-5産生は、培養液にデキサメサゾンを加えると抑制され、健常者と喘息患者で明らかな差は認めなかった。すなわち、末梢血中のILC2では、TSLPやTL1Aによりステロイド抵抗性は誘導されなかった。
ILC2はさまざまな臓器に存在し、異なる臓器に存在するILC2は転写因子や2型サイトカインの発現は共通しているものの、臓器特異的な遺伝子発現プロファイルを持つ。重症喘息に高率で合併する好酸球性副鼻腔炎患者の鼻茸組織にはILC2が存在し病態に関与している。そこで、好酸球性副鼻腔炎患者の鼻茸組織よりILC2を単離し、末梢血のILC2と同様に各種サイトカインで刺激し、IL-5産生に対するステロイドの影響を検討した。IL-33、TSLPによるIL-5産生はデキサメサゾンで抑制されたが、TL1A刺激によるIL-5産生はデキサメサゾンで抑制されなかった。末梢血中ILC2と異なり、鼻茸組織中のILC2はTL1A/DR3シグナルによりステロイド抵抗性が誘導されることが明らかとなった。現在、ILC2のステロイド抵抗性誘導の分子機序を解析中である。
本研究結果より、ILC2には臓器特異的な遺伝子発現プロファイルが存在するだけではなく、ステロイドの反応性にも臓器特異性が存在することが明らかとなった。


受賞コメント

近年、気管支喘息を含めたアレルギー疾患の罹患率は増加しています。気管支喘息の治療では、強力な抗炎症効果をもつ吸入ステロイド薬がその中心となります。しかし、ステロイド薬に抵抗性の難治性喘息患者が存在しており、ステロイド抵抗性の機序を明らかにすることは新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。私たちは、TNF/TFNRスーパーファミリーに属するTL1A/DR3シグナルが2型自然リンパ球ILC2のステロイド抵抗性を誘導することを見出し報告しました。本研究では、ILC2のステロイド抵抗性誘導の分子機序を解析し、難治性喘息の病態における役割を明らかにすることを目的とします。さらにステロイド抵抗性に関わる候補遺伝子・候補メディエーターとそのターゲット分子の探索を行い、喘息における新しい治療標的分子となりうるかの検証をすすめ、難治性喘息のみならず難治性アレルギー・免疫疾患の新規治療法の確立に繋がるよう研究に努めてまいります。