公益財団法人 日本呼吸器財団
令和3年度研究助成のご報告

肺癌における抗CTLA-4抗体が腫瘍浸潤制御性T細胞に与える影響の解明

研究代表者 岡山大学学術研究院医歯薬学域 腫瘍微小環境学分野・教授 富樫 庸介 先生

研究成果

抗PD-1/PD-L1抗体を代表とする免疫チェックポイント阻害薬の効果が証明されたが、その効果は限定的で効果予測バイオマーカーが求められている。特に抗CTLA-4抗体は肺癌でも抗PD-1抗体との併用効果が証明されているが、有害事象が高まるものの、上乗せ効果がある症例を絞り切ることができてはおらず、臨床的には喫緊の課題である。我々は過去に腫瘍浸潤リンパ球(TIL)にPD-1陽性制御性T細胞(Treg)が多い場合には抗PD-1抗体耐性であることを明らかにしたが、TregにはCTLA-4も高発現しているため、そのような場合には抗CTLA-4抗体の効果が期待できると考え研究を行った。
CTLA-4はCD28と競合することでT細胞機能を抑制しているため、TregのCD28の発現を調べたところCTLA-4と共発現していた。次にCTLA-4ブロックはTregのCD28のシグナルにも影響する可能性も考え、ADCC活性を除去した抗CTLA-4抗体でマウス腫瘍を治療したところ、ADCC活性がある場合に比較して治療効果が減弱し、腫瘍浸潤Tregが増加し、TGF-βやIL-10などの抑制性のサイトカインやGITRなどの活性化分子も発現が上昇した。さらにCD28の下流であるPI3Kシグナルの活性化も見られ、CD28シグナルを介してCTLA-4非依存的な活性が上昇していることが明らかになった。一方でCTLA-4という分子自体がTregの抑制能に重要であるため、CTLA-4ブロック時にはTregの抑制能は残存するが抑制されていた(Cancer Sci 2023)。
またTregのPD-1発現について、抗原性の影響を評価したところ、抗CD3抗体の濃度依存的にPD-1発現が上昇した。OVAに変異を入れて抗原性を変えてOVA特異的TCRをCD4陽性T細胞に持つOT-IIマウスのTregを刺激しても抗原性に応じてPD-1発現が上昇した。そこで、腫瘍にOVAを発現させ、免疫不全マウスに移植し、OT-II由来のTregを移入したところ、やはりPD-1発現は抗原性に応じて上昇した。このようなモデルでは抗PD-1抗体の効果が悪く、そこにADCC活性のある抗CTLA-4抗体を投与することで相乗効果が観察された。実際の臨床検体でも抗CTLA4抗体の追加が奏功した症例ではTreg浸潤が多く、TILのPD-1陽性Tregが抗CTLA-4抗体のバイオマーカーになり得ることが示唆された(MS prepared)。


受賞コメント

がん免疫療法の効果が肺癌で証明されましたが、いまだその効果は十分とは言えません。近年では抗PD-1抗体に加えて抗CTLA-4抗体という別の作用機序のがん免疫療法を組み合わせる治療方法が臨床応用されています。しかし、副作用も増えてしまうことから、どういった患者さんに有効なのか?ということが常に問題となっています。抗CTLA-4抗体は制御性T細胞という抗腫瘍免疫応答を抑制する細胞を標的にする薬剤とされていますが、逆の報告もあり詳細は不明な点が多いです。そこで本研究では、マウスモデル等も用いて抗CTLA-4抗体の制御性T細胞への影響を詳細に明らかにし、真に抗CTLA-4抗体併用が有効な患者さんを見つけられるバイオマーカーの同定を目指したいと思っています。