公益財団法人 日本呼吸器財団
令和2年度研究助成のご報告

肺癌転移性脳腫瘍の生体内観察モデルを用いた、新規治療薬の検討

研究代表者 京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学・助教 小笹 裕晃 先生

研究成果

腫瘍量の評価モデルについて、二光子顕微鏡を用いた脳転移細胞の生体内連続観察は安定して可能になり、ミクロのレベルで微小転移の増大を観測できるようになったが、開頭手術による侵襲の大きさと観察領域が限られる点が課題となった。これらの問題点を克服し相互に補完する手法として、発光イメージングによる腫瘍量の評価を行うこととした。具体的には、観察する腫瘍細胞に発酵酵素(ルシフェラーゼ)を安定発現させ、マウスに発光基質を投与して高感度CCDカメラで撮影することで腫瘍量を定量する。発光イメージングにより、上記のような二光子顕微鏡観察の問題点を克服し、低侵襲に頭蓋内におけるマクロなレベルの腫瘍量を定量的に連続評価できるようになった。これらの生体内観察モデルを組み合わせて、多角的に頭蓋内の腫瘍量を評価出来るモデルを構築した。
これらのモデルを用いて、現在実臨床で用いられている免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体による治療効果を検証した。それぞれ単剤では抗腫瘍効果は限定的であるが、両者を併用することで脳転移に対する高い治療効果を発揮することが示唆された。また、二光子顕微鏡を用いた生体内観察モデルと発光イメージを用いたモデルを組み合わせることにより、新規治療薬の転移性脳腫瘍に対する治療効果を適切に評価できることが示唆された。


第63回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

進行肺癌では、中枢神経系への進展が死因となることは日常臨床においてしばしば経験することです。進行肺癌の薬物治療は、新規分子標的治療薬や免疫療法の登場で飛躍的に進歩していますが、脳を含めた転移部位に対する抗腫瘍効果が不十分であることが完治に至らない原因のひとつであると考えております。私共の研究グループでは、二光子顕微鏡を用いて数日単位で継続的に癌細胞とミクログリアを中心とした脳内微小環境の挙動を可視化することにより、癌細胞が脳に生着して増殖する機序を解明し、転移性脳腫瘍に対する新たな治療戦略を構築することに取り組んでおります。進行肺癌の治療成績向上に少しでも還元できるように研究に邁進する所存です。