公益財団法人 日本呼吸器財団
令和2年度研究助成のご報告

新規抗酸化分子によるT細胞制御機構の解明と気管支喘息治療戦略の確立

研究代表者 東北大学大学院医学系研究科 呼吸器内科学分野・教授 杉浦 久敏 先生

研究成果

先行実験にて認めたダニアレルゲン経鼻投与喘息モデルにおける、Cars2 +/-マウスにて認めた2型気道炎症の増悪が、T細胞におけるCars2 欠損に主因するものか、我々はRag2 -/-マウスを用いた細胞移入実験を行った。その結果、Cars2 +/-マウス由来CD4+Tリンパ球を移入したRag2 -/-マウスでは、野生型を移入した群に比して、2型気道炎症の所見が増悪していた。本実験により、Cars2 +/-マウスにて認めた2型気道炎症の増悪が、T細胞におけるCars2 欠損に主因することが明らかになった。
次に、ナイーブCD4+Tリンパ球のT細胞受容体(TCR)活性化における活性硫黄分子種(RSS)およびその産生酵素であるCARS2の役割を解明するため、ナイーブCD4+Tリンパ球を、抗CD3e抗体にてTCR/CD3複合体を刺激し解析した。Cars2 +/-マウス由来のナイーブCD4+Tリンパ球はCD25などの活性化マーカー発現が有意に増強し、IL-2産生量も有意に増加した。CARS2のCD4+ T細胞の活性化制御機構を明らかにするため、CD4+ T細胞におけるTCR/CD3シグナル経路に着目して検討を行った。Cars2 +/-マウス由来のCD4+ T細胞は抗CD3e抗体の単独刺激においてCD3ζ鎖、ZAP-70、ERKのリン酸化の程度がCars2 +/+マウス由来のCD4+ T細胞に比して有意に増強していた。これらの結果から、Cars2ヘテロ欠損は、TCR/CD3刺激によるCD3ζ鎖のリン酸化を増強させることが判明した。
さらに、RSSの外的投与により、2型気道炎症を抑制することができる可能性を追求し、細胞レベルと個体レベルで検討を行った。RSS供与体であるGSSSGにてCD4+ T細胞を前処置した後、抗CD3抗体で刺激した。Cars2 +/-およびCars2 +/+マウスの両方で、CD4+ T細胞におけるCD3ζ鎖、ZAP-70、そしてERKのリン酸化の程度を有意に減少させた。また、TCR刺激後のCD25などの活性化マーカー発現誘導もGSSSGの投与により有意に抑制された。ナイーブCD4+Tリンパ球をGSSSGもしくはvehicleを含む培地を用いて、Th2分化条件下にて解析した結果、GSSSGによる処理は、Cars2 +/-およびCars2 +/+マウス由来ナイーブCD4+ T細胞におけるGATA3およびIL-13の細胞内発現を有意に減少させ、Th2細胞分化を有意に低下させた。さらに、ダニアレルゲン経鼻投与喘息モデルマウスの解析では、GSSSGの腹腔内投与により、Cars2 +/-、Cars2 +/+マウス双方にて、2型気道炎症の所見が抑制されていた。
本研究結果により、RSSおよびその産生酵素であるCARS2は、CD4+T細胞の活性化・Th2分化を負に制御し、過剰な免疫反応を抑制することが判明した。さらに、RSS供与体は喘息などのアレルギー・免疫疾患における過剰な免疫機序を制御しうる新規薬物候補分子になりうることが明らかになった。


第63回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

気管支喘息などのアレルギー疾患の罹患率は増加しており、難治性喘息などの重症アレルギー疾患の克服のために、病態のさらなる理解と新規治療法の創出が望まれております。我々は、難治性喘息の気道において過剰な酸化ストレスが生じ、気道炎症や過敏性の増強などの難治化病態の形成に深く関与していることを明らかにしてまいりました。本研究では、我々が世界で初めて肺における存在を明らかにした内因性抗酸化分子である活性イオウ分子種(RSS)に着目し、RSS産生酵素欠損マウスを用いて、RSSおよびその産生酵素の喘息病態における役割を解明することを目的とします。さらに喘息病態に中心的な役割を担うT細胞の活性化、及び2型ヘルパーT細胞分化におけるRSSの役割・作用機序を明らかにします。RSSが喘息における新しい治療標的分子となりうるか検証をすすめ、難治性喘息の新規治療法確立につながる研究成果を目指してまいりたいと思います。