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研究代表者 福岡歯科大学総合医学講座・呼吸器内科学 教授 松元 幸一郎 先生
気道ウイルス感染は喘息、COPD増悪の主な原因であり、2000年以降にヒトメタニューモウイルス (human metapneumovirus: hMPV)、ヒトボカウイルスが呼吸器感染を起こすウイルスとして報告され、ライノウイルス (human rhinovirus: HRV)の遺伝子群HRV-Cが新規同定された。本邦における小児・成人喘息間または成人喘息・COPD間での増悪原因ウイルスの差違を検討した報告はなく調査的臨床研究が必要と考えた。
2018年4月から2020年3月に福岡県下の3病院を受診した増悪患者(6歳~16歳の小児喘息58例、成人喘息64例、COPD44例)の鼻腔咽頭ぬぐい液をmultiplex PCR法を用いて解析した。小児喘息、成人喘息、COPDのウイルス検出率は81.0%, 48.4%, 38.6%であり、最も検出頻度が高いウイルスはそれぞれHRV/Enterovirus (全症例の65.5%), HRV/Enterovirus (32.8%), hMPV (15.9%)であった。HRV/Enterovirus陽性の61検体(小児喘息38、成人喘息21,COPD2)をVP4法で解析したところ59検体 (96.7%)でHRV/Enterovirus陽性が確認され、遺伝子群の内訳は小児喘息:HRV-A 47.3%, HRV-B 0%、HRV-C 42.1%、成人喘息:HRV-A 28.6%, HRV-B 9.5%、HRV-C 52.6%、COPD:HRV-A 0%、HRV-B 0%、HRV-C 100%と、HRV-Cが増悪の主要な遺伝子群であった。HRV-C陽性群と他のHRV陽性群間での患者背景、検査データ、アウトカム(入院、全身ステロイド使用)に有意差は認められなかった。Enterovirus D68は喘息症状に加え弛緩性麻痺を呈する症例が報告され本邦でも2015年に流行を認めた。今回の調査では小児喘息1症例のみEnterovirus D68陽性であった。以上より、①成人喘息と比較し小児喘息増悪にはウイルス感染がより関与する、②HRV-AとHRV-Cは小児喘息のみならず成人喘息増悪を引き起こす主要ウイルスであるが、他の遺伝子群と比較してアウトカムに差は認められない、③成人喘息とCOPDでは主要な増悪原因ウイルスが異なる可能性がある、④HRV-CはCOPD増悪も引き起こすことが明らかとなった。
COPDや喘息には近年、多様な吸入薬や生物製剤が使用可能になり、治療の選択肢が広がりました。一方、その増悪の主な原因である気道ウイルス感染については、うがいや手洗い励行による予防以外に未だ有効な対策がありません。対策構築の第一歩は増悪におけるウイルスの情報収集です。そこで福岡県内の国立病院機構3施設と2大学が共同し、増悪時の咽頭ぬぐい液試料をmultiplex PCR法で検討し原因ウイルスの同定と病態を解析する研究を開始しました。感染の季節周期性を検討するためには同一地域で複数年実施することが必要であり、財団の助成を賜ることで研究完遂の道筋が整いました。ご支援の成果を社会に還元すべく総力をあげて研究をおこなう所存です。