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研究代表者 近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学 主任教授 松本 久子 先生
下気道は従来無菌状態とされていたが、近年健常人でも細菌が存在し、喘息やCOPD例では、健常人に比べ下気道に定着する細菌叢のパターンが異なること、COPDでは増悪型(細菌性・好酸球性・ウイルス性)毎に細菌叢のパターンが異なることなどが示されてきた。閉塞性気道疾患の管理において細菌叢と、付随する炎症の把握は重要であるが、未だ不明な点が多い。申請者らは鼻腔の常在菌である黄色ブドウ球菌由来エンテロトキシン(SE)特異的IgE値が、重症好酸球性喘息 (Matsumoto, et al. Ann Asthma Allergy Immunol 2017)や喫煙者喘息(Nagasaki, et al. Ann Asthma Allergy Immunol 2017)で高く、SE感作例では気流閉塞が強いことを示してきた。本研究の目的は、閉塞性気道疾患におけるSEへの感作と各種臨床指標、下気道細菌叢などとの関係を包括的に解析し、閉塞性気道疾患の病態解明・管理向上につなげることである。
当施設と関連6施設において、前向きに閉塞性気道疾患、即ちFEV1/FVC<0.7の喘息、喘息COPD合併(ACO:診断は呼吸器学会によるACOの診断基準に基づいた)、COPDの 合計192例を登録し、SEへの感作と各種臨床指標、喀痰細菌叢との関連を解析した。SEについては抗原性の異なるSE-A、 SE-Bの両者に着目したが、SE-Aの方が上皮へのtranscytosisの効率が悪く(Hamad, et al. J Exp Med 1997)、感作成立例では上皮傷害が強い可能性が推察される。結果、SE-A、SE-Bへの感作は各々全体の35%、46%であり、3疾患での比較ではSE-A、SE-B感作ともACOで最も強く、特にCOPDに比し有意であった。SE-A、SE-B感作例とも、非感作例に比しアトピー素因が強く、吸入ステロイド薬使用、前年の増悪が有意に多かった。喀痰細菌叢については解析直後であり、詳細な検討は行えていないが、α・β多様性に3疾患で差はなかった。但し門レベルの細菌叢の分布が異なっていた。これらの結果から、SEは喫煙関連のアレルゲンとしてACOの病態に深く関与すると推察される。今後SE感作と臨床・炎症指標との関係について、特に他の薬剤との関係、細菌叢との関係を含めて詳細な解析を加える予定である。
助成をいただき “気道細菌叢と感作に着目した閉塞性気道疾患の病態解析” について、より深く研究を展開できる様になりました。本助成を最大限に活用させていただき、閉塞性気道疾患の下気道に定着する細菌叢のパターン、黄色ブドウ球菌などの微生物への感作と気道障害、病態との関係を明らかにしたいと思います。ひいては重症喘息やCOPD などの難治性気道疾患のより良い管理・治療に還元できるよう、研究を遂行する所存です。