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研究代表者 新潟大学大学院医歯学総合研究科呼吸器・感染症内科学分野 教授 菊地 利明 先生
非結核性抗酸菌 (NTM)症の病態分類は不明確なことが多い。そこで本研究では「NTM症患者の起因菌の性状は、患者の病態を反映しており、起因菌から病態を分類できるのではないか?」という仮説を掲げた。
研究初年度は、患者病態データの収集を主に行った。NTM症患者の起因菌とその病態との関連を明らかにしていくために、27例のNTM症の患者を集積し、その患者病態データを収集した。対象は、新潟大学医歯学総合病院でNTM症と診断された18歳以上の成人例である。所属研究機関 (新潟大学) の倫理委員会で承認を受けた研究計画(承認番号:2016-0106)に従って、診療情報 (年齢、性別、生活歴、既往歴、現病歴、臨床検査値、X線/CT画像、治療経過、予後) に加え、炎症性因子 (38種類のサイトカインと鉄代謝マーカー) の血中濃度を、患者病態データとして収集を進めた。
研究二年度は、NTMのゲノムデータから数理モデルを構築した。NTM10株のゲノム配列データをマルチプレックスのシングルエンド法で解析したところ、約5 MbのNTMのゲノムに対し、平均2,574 Mbのシークエンスデータが得られた。NTM10株の内訳は、増悪病態と安定病態のNTM症患者それぞれ5例ずつの起因菌である。これらのゲノム配列データを、基準株のゲノムへマッピングし、SNP候補を検索した。検出された全SNP候補は、63,809個で、そのうち増悪ならびに安定病態の各5株間で共通して検出、かつ、対比する病態でSNPが検出された株が3株以下のSNP候補は15,058個であった。この15,058個の出現パターンを対象に、機械学習を用いて、増悪あるいは安定病態かを識別する数理モデルの構築を試みた。モデル構築に使用した機械学習は、識別に重要なSNPを絞り込むため「教師あり」で、ランダムフォレストを用いて識別に寄与する要因を探索した。15,058個のSNPパターンで学習を行ったところ、使用したSNPパターンで増悪あるいは安定病態を完全に識別可能な学習モデルを作成できた。さらに分離に寄与していたSNPを抽出したところ、280個のSNPを同定することができた。
今後は、今回構築した識別モデルの精度をより高めるために、同定した280個のSNPについて遺伝子機能や同義/非同義置換の有無などを検討していく予定である。
今回ご採択いただいた研究は、患者数の増加している肺非結核性抗酸菌 (NTM) 症に対し、「肺NTM症患者の病態を起因菌から予測する数理モデル」を構築しようとする研究です。具体的には、患者由来の病態と起因菌についてのバイオデータを、神経回路網 ( ニューラルネットワーク) アルゴリズムを駆使して解析を進めます。肺NTM症患者の病態を起因菌から予測できるようになれば、患者ごとの病態の多様性が指摘されている肺NTM症において、個別化医療への有力なツールとなることが期待されます。