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研究代表者 大崎市民病院 アカデミックセンター・監理官 一ノ瀬 正和 先生
COPD患者において、身体活動性は最も重要な予後規定因子であるが、その経時的変化についての報告は少なく、身体活動性経時的低下に関連する因子は明らかになっていない。我々はこれまで、老化抑制作用を有するマイオカインgrowth differentiation factor 11(GDF11)がCOPD患者の肺および血漿で有意に低下していること、血漿中GDF11 量は身体活動性と有意な正の相関関係にあることを明らかにしている。本研究では、COPD患者の身体活動性について前方視的に追跡調査を行い、身体活動性低下に関連する全身性液性因子を探索することを目的とした。
身体活動性は3軸加速度計を用いて測定した。血漿中GDF11量はイムノブロット法にて測定した。本研究登録時に身体活動性測定および血液採取が実施できた安定期COPD患者は83名であった。その後、併存疾患による入院症例、身体活動性に影響を及ぼす疾患発症例、死亡症例等の脱落症例を除いた、21名(病期I期:1名、II期:9名、III期:8名、IV期:3名)に追跡調査を実施した。
1日平均歩数の変化率は血漿中GDF11 量変化率と有意な正の相関を示した(r=0.44、p=0.044)。各運動強度別の活動時間についても解析を行った結果、2.0METs以上の運動強度活動時間変化率(r=0.44、p=0.047)、2.5METs以上の運動強度活動時間変化率(r=0.53、p=0.013)、および3.0METs以上の運動強度活動時間変化率(r=0.51、p=0.019)と血漿中GDF11 量変化率との間に有意な正の相関を認めた。本研究結果はCOPD患者において、身体活動性の経年変化と血漿中GDF11量の変化が正に相関することを明らかにしており、COPD患者における身体活動性の低下に老化抑制作用を有するマイオカインGDF11の低下が関与する可能性を示唆する知見である。今後、COPD患者にリハビリテーションや吸入療法による介入を行い、身体活動性や下肢筋力の改善度と血漿GDF11量の増加率が相関するかについて検討を進める予定である。
一方、今回の研究において、登録時の血漿中GDF11量は、追跡調査時の身体活動性の低下率とは関連していなかった。このことは血漿中GDF11量がCOPD患者の将来の身体活動性の低下リスクを予測するバイオマーカーではないことを示唆していた。今後、サルコペニアに関連する他のマイオカインや炎症性サイトカイン、および、骨格筋より放出されるエクソソームに着目した解析を継続し、COPDにおける身体活動性低下に関与する病態の更なる解明と予後予測マーカーの確立を目指し、症例数を追加して解析を進める予定である。
COPD患者の疾患早期からの身体活動性の低下は、その経時的変化と関与する因子が不明でした。我々はマイオカインの一種で抗老化液性分子であるgrowth differentiation factor 11(GDF11) がCOPD患者の血漿および肺において、産生が低下し身体活動性と関連することを見出しました。本研究ではこれらを発展させ、大規模COPDコホートを用いてCOPD患者の身体活動性を経時的に計測し、前向きにフォローすることで身体活動性の低下に寄与する諸因子を解明することを目的に行っております。特にGDF11をはじめとする液性因子に着目して、その分子機序を含めて検討しています。すでに1年間の経過観察が終了し、興味深いデータが集積されつつあります。本研究助成金を有効に活用し、成果を世界に発信すべく研究を継続していく予定です。