公益財団法人 日本呼吸器財団
平成30年度研究助成のご報告

肺癌TNM分類における新たなM因子の確立; Cluster circulating tumor cellの臨床病理学的意義の探索

研究代表者 奈良県立医科大学附属病院呼吸器外科 教授 澤端 章好 先生

研究成果

癌腫病変は循環血液中に末梢血循環腫瘍細胞(circulating tumor cell: CTC)として癌細胞を移動させおり、CTCの中でも集塊形成(cluster)CTCは高い悪性度のサロゲートマーカーとして知られている。末梢血管を中心とした血循環装置は“臓器”であると考えられ、CTCの同定はTNM分類のM因子となる可能性がある.CTCことにcluster CTCの臨床・病理学的意義を、病期とは独立した予後不良因子である可能性があるので、多施設前向き研究のプロトコール作成に備え、CTC検出の妥当性や症例数設定の為に参加予定施設での肺癌周術期のデータベースを用いて後方視的に解析しました。
術前にCTC検査をした108例中検出なしは77例(74.0%)、single CTCのみ検出は7例(6.7%)、cluster CTCも検出は20例(19.2%)で、cluster CTCを有する患者は、他の群の患者よりも有意に低い2年間無再発生存率(45.0%)および全生存率(72.1%)を示した。また、ハザード比分析では、cluster CTCのみが予後不良の他の予測変数とは独立していた。また、別のsetting(術前にCTCを検出しなかった症例81)で行った、術直後のCTCの状態を検討した結果、術後CTCは58人(71.6%)の患者では検出されなかったが、6人(7.4%)の患者でsingle CTCのみ検出され、cluster CTCは17人(21.0%)の患者で検出された。遠隔転移は、術後に検出されたcluster CTCを有する場合に多く見られ、2年間無再発生存率は、CTC検出なし群で94.6%、single CTCのみ群が62.5%、cluster CTC群が52.9%(p<0.01)であった。多変量解析では、再発はcluster CTCの術後検出はともに病理病期を共変量として独立していた。
以上より、cluster CTC検出は臨床病期、病理病期においてM因子とする妥当性があるとの仮説が得られ、現在仮説検証のために後ろ向き観察研究の成果をもとに多施設前向き観察研究を鋭意進めています。


第61回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

肺癌は手術で完全切除しても転移再発するのは何故か?これは32年前に外科医師となった私の初めて抱いたクリニカルクエスチョンです。確かに、手術で病巣を完全切除すれば癌を治していることになりますが、手術操作で癌細胞を循環血液内にまき散らせば、遠隔転移になるかもしれません。このようなクリニカルクエスチョンに対し約30年間研究を続け、ようやく一筋の光が見えてきました。手術操作で誘発される末梢血循環癌細胞があり、集塊形成型のものは転移再発しやすいことがこれまでの研究を通してわかってきました。この末梢血循環癌細胞の臨床的意義をよりエヴィデンスレヴェルの高いものとすべく計画した研究に対し頂いた助成を基に、肺癌治療成績向上につながることを信じて研究に邁進いたします。