公益財団法人 日本呼吸器財団
平成29年度研究助成のご報告

肺癌に対するサルベージ手術の有効性と安全性を検討する多施設共同後ろ向き研究

研究代表者 信州大学医学部外科学教室呼吸器外科学分野 教授 清水 公裕 先生

研究成果

近年、切除不能症例、局所進行症例、耐術不可能症例、手術拒否症例に対する治療成績は向上しているが、依然根治にいたる症例は限られ治療後も局所病変のみが再燃する症例は少なくない。これらはサルベージ手術と呼ばれているが、本邦ではサルベージ手術の検討は殆どなく、海外でも大規模な検討はなされていない。そこで、本邦のサルベージ手術の現状を把握するとともに、有効性・安全性・長期成績について検討し、サルベージ手術の意義を確立することを目的に本研究を行った。
結果(1)放射線治療後のサルベージ手術156例が集積された。内訳は放射線化学療法(CRT)or放射線治療(RT)後のサルベージ手術群が110症例、定位放射線治療(SBRT)or重粒子線治療(CIRT)後のサルベージ手術群が46例であった。組織型が判明している152例の内訳は腺癌が70例(46%)、扁平上皮癌が55例(35%)、その他が27例(18%)であった。全156例の術後3年生存率 (3y-OS) および3年無再発生存率(3y-RFS)は、それぞれ64.7%、48.8%であった。CRT or RT群、SBRT or CIRT群の3y-OS は、それぞれ67.3%、57.7%であった. CRT or RT群においては、病理学的リンパ節転移有りが独立した OSおよびRFSにおける予後不良因子であった。SBRT or CIRT群においては、 治療開始年齢 (≥70)が OSおよびRFSにおける予後不良因子であり、さらに病理学的リンパ節転移有りがRFSにおける予後不良因子であることを示した。さらに全体の30日および90日死亡率はそれぞれ0%、1.9%であることを明らかにした。以上の結果より放射線治療後のサルベージ手術は予後良好で、安全性が高い治療法であることを示し、現在海外のトップジャーナルに投稿中である。
結果(2)分子標的治療後のサルベージ手術36例が集積された。全例腺癌で、33例にEGFR-TKI、3例にALK-TKIが投与された。初回TKIの効果判定はCR:3例、PR:27例、SD:2例、PD:4例、3-OS・RFSはそれぞれ75.1%、22.2%であった。OSに関与する予後不良因子は、初回TKI治療の治療効果(PD)、および術前CEA高値(≥5.0)であった. また、RFSに関しては、初回治療時年齢(≥70)とpT因子(T2-T4)がそれぞれ予後不良因子であることを示した. さらにGrade 3のAEを2例(5.6%)に認めたが、90日以内の死亡例はないことを明らかにした。以上の結果から分子標的治療後の局所残存病変のサルベージ手術は、Cancer-free conditionを得ることが難しいが、局所のTumor burdenを減らすことでOSの延長に寄与する可能性があることを示し、現在海外のトップジャーナルに投稿中である。


第60回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

近年、切除不能症例、局所進行症例、耐術不可能症例、手術拒否症例に対する治療成績は向上しています。しかし、依然根治にいたる症例は限られ治療後も局所病変のみが再燃する症例は少なくありません。これらの救済治療がサルベージ手術ですが、本邦ではサルベージ手術の検討は殆どなく、海外でも大規模な検討はなされておりません。そこで、本邦のサルベージ手術の現状を把握するとともに、有効性・安全性・長期成績について検討し、サルベージ手術の定義及び意義を確立することを目的に本研究を行いました。結果、世界に冠たるビックデータが集積され、解析も終了し、現在海外のトップジャーナルに投稿中です。