公益財団法人 日本呼吸器財団
平成29年度研究助成のご報告

高齢者肺癌に対する外科治療の安全性と有効性を評価するための多施設共同前向き研究

研究代表者 聖マリアンナ医科大学呼吸器外科 教授 佐治 久 先生

研究成果

人口の高齢化に伴ない高齢者肺癌手術症例の割合は年々増加している。日本胸部外科学会学術調査によると2015年の原発性肺癌手術件数は40,000件を超え、その内訳は70 歳以上が既に半数以上をしめている。さらに80 歳以上の超高齢者肺癌手術の割合も12%あり人口の高齢化と伴にその割合も年々増加している。80歳以上の超高齢者肺癌患者はその全身状態も暦通りではなく、認知機能も考慮した総合機能評価が重要であり、その周術期管理とさらには生命予後に関する治療マネージメントに関するコンセンサスの構築が期待される。
2014年より、日本呼吸器外科学会学術委員会では高齢者肺癌に対して肺切除が施行された症例を前向きに集積し、高齢者総合機能評価項目と周術期有害事象ならびに予後に関して比較検討し外科的治療の安全性と有効性を評価し、新しい周術期総合リスクスコアリングシステムの構築を目的とした「高齢者肺癌に対する外科治療の安全性と有効性を評価するための多施設共同前向き調査研究」JACS1303 (UMIN000016756)」(Saji H et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2016)を計画・遂行した。症例は2015年4月~2016年12月に82施設より前向き登録した80歳以上高齢者肺癌1019例のうち総合機能評価項目(CCI, SCS, GPS, CGA)を有する895例を対象とした。Grade3以上の術後合併症(CTC AE4.0)を予測する術前因子を統計学的に同定し、以下に示す新しいリスクスコアリングシステム;RS = 3 (Gender: male) + 2 (CGA75: memory: yes) + 2 (Alb: <3.8 ng/ml) + 1 (%VC: ≦90) + 1 (SCS: Diabetes mellitus: yes)を構築し報告をした(Saji H et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2017)。2019年12月には最終登録後3年の予後調査を行い2020年には前述した新しいリスクスコアリングシステムと生存期間との関連を検討し80歳以上の超高齢者肺癌患者に対する外科的治療戦略とそのマネージメントに関して報告を予定している。


第60回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

人口高齢化に伴ない高齢者肺癌手術の割合は年々増加しております。年間4 万件を超える原発性肺癌手術の約半数が70 歳以上であり、80 歳以上も既に10%を超え、その割合は年々増加しております。本研究では高齢者肺癌手術を安全に執り行うための新しいリスクスコアリングシステムの構築を目指しており、高齢者ならではの認知機能評価やタンパク量を含めた因子も加えて検証しております。80 を超える主要施設のご協力を得て約1000 例の80 歳以上高齢者肺癌手術を集積し、主要解析結果の報告は2020 年オリンピックイヤーを予定しております。本財団の理念である「市民に向けて、呼吸器疾患への理解を深め、発症の予防・早期発見・適切な治療のための教育啓発活動」に微力ながら貢献できればと存じます。