公益財団法人 日本呼吸器財団
平成29年度研究助成のご報告

肺炎球菌ワクチンの肺炎予防効果の検証

研究代表者 島根大学医学部附属病院呼吸器/化学療法内科 教授 礒部 威 先生

研究成果

島根県出雲市は人口17万人のうち約5万人を65歳以上の高齢者が占める地方自治体であり、出雲市内にある基幹病院 5施設(島根県立中央病院、出雲徳洲会病院、出雲市民病院 、出雲市立総合医療センター、島根大学医学部附属病院)に急性期の肺炎患者のほぼ全てが入院するという医療的背景を有している。そのため、5施設の患者データを調査することで出雲市内の肺炎患者の全容が把握でき、その経年的変化も調査しやすいという利点がある。出雲市の肺炎診療の現状を把握する目的で、昨年度、各施設の診療録を閲覧し、2011年度から2014年度(2011-12年度:前期、2013-14年度:後期)に上記5病院に入院した症例を対象として後ろ向きに調査を行った。今回は併存症、肺炎の発症場所、肺炎の重症度、起炎菌について検討した。65歳以上の入院患者は前期1188例、後期1086例であり、起炎菌、肺炎の重症度には差が認められなかったが、後期では前期に比して有意に医療顔後関連肺炎の頻度が増加した(58%から73%: p<0.005)。一方で、調査した患者の肺炎球菌ワクチン接種率は3.8%と極めて低かった。そこで、島根県におけるワクチン接種状況とガイドライン等の認知度について、島根県内の医療機関計794施設を対象として2017年と2019年の2回調査した。その結果、肺炎球菌ワクチンの認知度は内科医、小児科医では概ね良好であったが、それ以外の診療科では低い傾向にあった。PPSV23とPCV13の両方を接種している施設は呼吸器内科以外では未だ半分以下にとどまることが判明した。多変量解析の結果、「65歳以上の高齢者に対する接種が推奨されている肺炎球菌ワクチンには2種類あることを知っている」施設では、有意に高率に肺炎球菌ワクチンを接種おり(p<0.05)、「PCV13を任意接種しても、PPSV23の定期接種を受けられることを知っている」施設では有意に高率にPCV13を接種していた(p<0.05)。今回の解析からは、2種類の肺炎球菌ワクチンの存在と投与方法を周知することが接種率の上昇に寄与すると推察された。肺炎球菌ワクチンが2種類あることは知っていても、接種方法が分からず定期接種の対象となっているPPSV23のみ接種している可能性がある。今後は肺炎球菌ワクチンの接種方法を中心とした啓発活動を行っていく必要があると考えた。


第60回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

肺炎に罹患する人の多くは65 歳以上の高齢者で、入院をきっかけに身体機能・日常生活動作・認知機能が低下し、健康寿命を損ねる方が少なくありません。原因菌として一番多くを占めるのは肺炎球菌で、現在、2 種類の肺炎球菌ワクチン(プレベナー13、ニューモバックス)が使用可能で、それぞれに肺炎予防の効果を認めています。本研究では島根県内の肺炎球菌ワクチン接種の現状、出雲市の65 歳以上の高齢肺炎入院患者肺炎球菌ワクチンの効果について検討します。更なる超高齢社会になる我が国の人口動態を変える事は困難ですが、我々医療従事者の行動を治療から予防にシフトしていく事で、疾病動態を変えることが出来るのではないかと考えており、本研究に取り組んでいきたいと思います。