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研究代表者 慶應義塾大学医学部呼吸器内科 専任講師 石井 誠 先生
近年、気管支拡張症の罹患率・入院や死亡の増加が報告され、大規模な症例レジストリー研究が欧州、米国で実施されているが、地域により背景疾患・NTM症合併率が異なる。その理由として、① 人種・地域、② 患者登録方法、③ 原因疾患の検索方法、④ 疾患定義や疾患概念の差などが考えられる。また、肺NTM症で気管支拡張を呈する者の中には無治療でNTMの排菌が陰性化する例もあり、 NTM症は気管支拡張症の原因にも結果にもなり得る。我が国の気管支拡張症に関する大規模な実態調査は喫緊の課題であると考え本研究を立案した。
2017年11月より、2007年ATS/IDSAの診断基準を満たす肺非結核性抗酸菌症の患者、あるいはCT上気管支拡張を認め呼吸器症状を有する患者の同意を得て、国内12施設にて後ろ向きに多施設共同研究としてエントリーを開始し、2019年4月現在、1016例から同意を取得した。登録を完了した755例の1次解析の結果、気管支拡張症の75%に肺NTM症を認めた。気管支拡張症を有する肺NTM症は、有さないNTM症に比べ、女性が多く(83% vs. 49%)、BMI低値(19.3 vs. 20.3)、%FVC低値(78 vs. 107)、%FEV1低値(71 vs. 102)を認め病像が異なった。NTM 589例の菌種はMAC 523例、MABC21例、MAC及び他のNTMの混合感染22例、M .kansasii 8例であった。MABC症及び混合感染では全例気管支拡張症を呈していた。肺NTM症の中では、NTM症以外に気管支拡張症の原因疾患を認めない例が72%と多かった。肺NTM症と確定診断されている気管支拡張症の方が、肺NTM症を伴わない気管支拡張症に比べて気管支拡張症の程度が強く、より病変の広がりを認めた。今後も2019年12月末まで登録を継続し、日本における肺NTM症を含めた気管支拡張症の原因疾患及び病態像を明らかにしていきたい。
近年、気管支拡張症は罹患率や入院患者数、死亡者数の増加が報告され、大規模な症例レジストリー研究が欧州、米国で実施されております。その原因疾患は多岐に渡り、地域・国ごとにその頻度は異なります。気管支拡張症との密接な関連性が示唆される非結核性抗酸菌症の合併率は、米国の報告では63% である一方、欧州からの報告では10% 以下とされます。日本では気管支拡張症のレジストリーはこれまで存在しませんでした。そこで私どもは、現在レジストリーを構築し症例集積中であり、気管支拡張症の実態調査を行い、気管支拡張症の原因およびその健康関連QOL への影響を初めて明らかにしたいと考えております。貴財団より研究助成を得てはじめて現在研究を順調に進めることができております。