公益財団法人 日本呼吸器財団
COVID-19関連研究助成のご報告

Radiomics解析による新型コロナウイルス関連肺炎の予後予測モデルの構築

研究者 千葉大学大学院医学研究院 難治性呼吸器疾患・肺高血圧症研究講座 特任准教授 川田 奈緒子 先生

研究成果

【研究背景】 2023年現在、世界のCOVID-19患者数は減少傾向にあるが、入院治療を必要とする患者の早期診断ならびに限られた医療資源の適切な配分は未解決の課題として残った。本研究では、COVID-19患者の臨床情報と胸部CT画像を統合して、入院治療の基準のひとつである酸素供給の必要性を予測するディープラーニング(以下DL)モデルを構築した。
【方法】 臨床情報(患者背景、臨床症状、血液検査所見)および胸部CT画像が撮影されたCOVID-19患者738例をレトロスペクティブに登録し、初期データセットとして591個の訓練データと147個の評価データに分割した。臨床情報とCT画像を統合し酸素供給の有無を予測するDLモデルを実装した(図1 )。作成したモデルを用いて他の2施設(n=191, n=230)で外部検証を行った。さらに予測における根拠となった臨床情報を抽出した。
【結果】 提案したDLモデルは、酸素供給の有無予測において89.9%の曲線下面積(AUC)を示した。他の2施設からの検証でも、AUC>80%を示した(図2)。予測根拠の解釈に関しては、臨床情報においては呼吸困難と乳酸脱水素酵素値(LDH)の寄与度が高かった。
【結論】 臨床情報と胸部CT画像を統合したDLモデルは酸素供給の有無について高い予測精度を示し、DLに基づく重症度予測は、COVID-19の診療に役立つ可能性がある。今後は、他の亜型にも適応できるようモデルの頑強性を高め、さらに他の慢性呼吸器疾患の予後予測へも適応できるか検証する。本研究成果の一部はJournal of Japanese Radiology誌に掲載された。

図1臨床情報と画像情報を統合したモデル

図1臨床情報と画像情報を統合したモデル

図2酸素供給についての各モデルの予測結果

図2酸素供給についての各モデルの予測結果


第64回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

2021年10月現在、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の世界的な流行はいまだ収束の兆しが見えません。COVID-19の重症度は軽症から重症までの4段階に大別されますが、重症化が見込まれる症例を早期に検出することは、限られた医療資源の適切な使用ひいては患者さんの救命につながるため、その診断法の確立は喫緊の課題です。今回、私たちは、内科、放射線科、医工学の分野から協働し、COVID-19関連肺炎の経時的な胸部画像から重症度診断における精度の高い画像特徴量とその変化量を導き出し、深層学習を用いた網羅的解析を行うことで、最適な予後予測モデルを構築することを目指します。成果を早期に医療現場にフィードバックするとともに、普遍性の高いアプローチの構築を目指す所存です。