BreadCrumb
研究者 京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科・准教授 伊藤 功朗 先生
【対象と方法】健常者コントロール、高齢者疾患コントロール、関節リウマチ患者(メソトレキセート、ステロイド剤、抗TNF-α抗体使用中)、B細胞性悪性リンパ腫患者(リツキシマブ治療中もしくは治療終了3年以内)、気管支喘息(主にバイオ製剤を使用)、肺非結核性抗酸菌症患者を対象として、
書面にて同意を得たのち、①ワクチン接種前、②1回目ワクチン接種後14~21日目、③2回目ワクチン接種後21~28日目、④2回目ワクチン接種後150~210日目の計4回採血を行った。各サンプルでコロナワクチンスパイク(S)タンパク抗体価を測定した。また、③・④ではSタンパクに対するIFN-γ遊離活性を測定した。
【結果】
・コホート全体
ワクチン1・2回目接種後の抗S1-IgG抗体価・野生株中和能は、健常者(n=45)・疾患対照患者(n=23)・気管支喘息患者(n=30)・肺非結核性抗酸菌症患者(n=13)の間では統計的に有意差を認めなかったが、関節リウマチ患者(n=84)、悪性リンパ腫患者(n=32)については症例間で測定値に大きなばらつきを認めた。
・気管支喘息
生物学的製剤(抗IgE抗体・抗IL-5抗体・抗IL-5Rα抗体)使用および吸入ステロイド用量は、ワクチン2回接種後の液性免疫応答(抗S1-IgG抗体価・野生株中和能)の強度と関連しなかった。
・関節リウマチ
アバタセプト(抗CTLA-4抗体)・JAK阻害薬・メトトレキサート(MTX)を投与されている場合、ワクチン2回接種後の抗体価・中和能の有意な低下を認めた。特にMTXは用量依存性に液性免疫応答を抑制した。また、MTX投与群ではワクチン2回目接種6か月時点のSARS-CoV-2特異的IFN-γ産生量が有意に低下していた
・悪性リンパ腫
ワクチン1・2回目接種後の抗体価・中和能と、抗CD20抗体製剤の最終投与からワクチン初回接種までの間隔(インターバル)との間に強い正の相関を認めた。特に、インターバルが6ヵ月以内の症例においては、全例でワクチン2回接種後の抗体価の上昇がみられず、中和活性も陰性であった。一方、ワクチン2回接種3週時点のSARS-CoV-2特異的IFN-γ産生量は、インターバルに関わらずほとんどの検体で陽性カットオフ以上であった。しかし、抗体産生が見られなった群では、2回接種後に産生されるIFN-γの経時減衰率が高かった。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行が続く中,発病予防・重症化予防のためにワクチン接種が進んでいます.ワクチン免疫については主に抗体価の測定をもって評価されており,ワクチンはほとんどの健常人で液性免疫を確立します.一方で,免疫不全状態にある患者さんにおけるワクチン効果についての報告は限定的です.抗体価は分かり易い指標ではありますが,それがすべてではありません.免疫記憶の確立や,T細胞を中心とする免疫機構については評価されることはほとんどなく,今後の検討課題です.本研究では特に免疫不全の患者さんを対象とすることで,抗体価以外の免疫構築について詳細に検討する予定です.このたび,日本呼吸器財団から研究助成をいただけることとなり,大変感謝いたしますと同時に,免疫不全の患者さんの評価に役立つよう精力的に研究を進めて参りたいと存じます.