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研究者 理化学研究所生命科学研究センター 創薬抗体基盤ユニット・リーダー 齊藤 隆 先生
ヒトTMPRSS2タンパクのリコンビナント、およびヒトTMPRSS2を発現させたマウス細胞株を交互にマウスに免疫し、電気融合法によってハイブリドーマを作成した。各クローンをFACSによる細胞表面発現Spikeタンパクの染色で第一スクリーニングし、Spike発現293細胞とACE2/TMPRSS2発現293Tとが細胞融合するのを阻害する系によって、機能的な二次スクリーニングを行った。これより約200クローンが取れて、更にSARS-CoV2の感染阻害での3次スクリーニングを行い、強く感染阻害する20クローンを得た。特に阻害活性の強い4クローンを詳細に解析した。
これら抗体のTMPRSS2への親和性は nMの範囲で高い親和性を持ち、in vitroでのヒト肺上皮細胞株へのSARS-CoV2感染の阻害はIC90が1以下(0.1-0.5)と大変強い阻害活性を示した。重要なことに、抗Spike抗体による阻害と異なり、全ての変異ウイルス株;α、β、γ、δ、λ、κ、ο についてほぼ同様に強力に阻害できることが判明した。動物間交差性を調べると、多くはサルとは交差し、一部マウス、ネコと交差した。抗体の認識するエピトープを、2つの方法:ペプチドライブラリーとクライオ電顕 にて解析した結果、基質結合部位の近傍に一つ、よりC末端に近い部位に一つ、存在することがわかった。
In vivoにおける感染阻害活性を、カニクイザルにおけるSARS-CoV2感染の系を用いて調べた(滋賀医大・伊藤先生との共同研究)。サルにSARS-CoV2デルタ株を感染させ、サルと交叉活性を持つ752抗体をヒト化した抗体を用い、感染からday0とday1の2回、100mgを静注した。抗体投与群では、明らかに体温上昇が抑えられた。ウイルス量をPCRで解析し、気管支では、約1/20に減少していた。更に感染1週間後に肺組織中のウイルス抗原を組織病理的に検出すると、対照群と比べ抗体投与群ではほとんど検出されないことが判明した。このサル感染実験の結果より、樹立したTMPRSS2抗体は in vivoの感染系においても阻害活性を示すことが明らかになった。
今後さらにヒトに対する反応性・薬効を解析するために、ヒト肺オルガのイドでの感染系への効果を調べるとともに、臨床応用に向けて、抗体投与による前臨床的抗体投与実験(血中サイトカイン測定、抗体の血中代謝、組織解析)を進めてゆく予定である。
新型コロナウイルスSARS-CoV2感染は、2年に及ぶ未曾有なパンデミック感染となり今後も脅威となろうとしています。画期的なmRNAワクチンによって感染が抑えられ、抗体カクテルによって重症化が阻止されているものの、種々の変異ウイルスの出現によってこれらの予防・治療も弱化されようとしています。私達は、変異ウイルスに対しても感染阻止できるような治療薬として、ウイルスに対する抗体でなく、感染に必須なホスト蛋白TMPRSS2に対する抗体を樹立し、実際、細胞感染ではどの変異ウイルス感染も阻止します。今回の助成を頂き、実際に生体内で治療薬としての有効性をサル等動物実験で進めさせて頂きます。その上で早期に医療応用のできる開発をしたいと考えています。