公益財団法人 日本呼吸器財団
COVID-19関連研究助成のご報告

2光子生体イメージングで解明するCOVID-19の病態メカニズム

研究者 東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門・特任研究員 植木 紘史 先生

研究成果

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は時として致死性の肺組織障害を引き起こす急性呼吸器感染症である。COVID-19重症例の肺では大量の免疫細胞の浸潤が認められ、病態の増悪に関与することが示唆されているがその詳細は不明である。SARS-CoV-2の感染部位における炎症進展ならびに組織障害のメカニズムを解明するためには、感染から重症化に至るまでの感染個体の体内で起きている様々な生理学的事象を可視化して解析する必要がある。本研究では、SARS-CoV-2感染肺における免疫細胞の役割を明らかにすることを目的に、我々が開発した生体肺イメージングシステムを用いて、SARS-CoV-2に感染したヒトアンジオテンシン変換酵素2発現トランスジェニック(hACE2 Tg)マウスの生体肺イメージング解析を実施した。
本研究において、生体イメージング法を用いてSARS-CoV-2感染肺における血流や遊走する免疫細胞の挙動を捉えることに成功した。SARS-CoV-2感染肺では肺胞腔への血液の漏出が起きていることが明らかとなり、SARS-CoV-2の感染により血管内皮細胞の損傷や細胞間接着の減弱が生じることで肺毛細血管の透過性が大きく亢進していることが示唆された。さらに、タイムラプス像で撮影したSARS-CoV-2感染肺では肺毛細血管中の免疫細胞の数が増加し、その移動速度が低下することが明らかとなった。
COVID-19肺炎における肺毛細血管中の免疫細胞の増加や、血小板との複合体形成による微小血栓が肺塞栓の原因となり病態の増悪に寄与している可能性が明らかとなった。生体イメージング法を用いて感染微小環境を高解像度で観察することで従来の組織学的な解析では見出すことのできなかったSARS-CoV-2感染における免疫細胞応答の一端が明らかとなった。


受賞コメント

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が続いています。COVID-19症例の多くは軽い呼吸器症状でおさまりますが、高齢者や基礎疾患を有する方などは重度のウイルス性肺炎を併発して重症化し、死に至ることも少なくありません。COVID-19病態の全体像を理解するためには、SARS-CoV-2感染個体における感染から重症化、あるいは回復に至るまでの体内で起きている様々な生理学的事象を可視化して解析する必要があります。私たちはこれまでに、2光子励起顕微鏡を用いた生体イメージングシステムの開発に成功したことで、感染動物を高解像度で観察し定量化解析が可能な実験系を確立してきました。本研究では、2光子生体イメージングシステムを駆使して、SARS-CoV-2感受性動物における免疫細胞の役割を解析しCOVID-19肺炎の病態解明を目指します。