公益財団法人 日本呼吸器財団
COVID-19関連研究助成のご報告

新型コロナウイルスの新規変異予測技術の開発

研究者 東京大学大学院医学系研究科 微生物学・教授 竹田 誠 先生

研究成果

2019年12月の末、中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎アウトブレイクが発生した。病原体が特定され、重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)と名付けられた。SARS-CoV-2の流行は、急速に拡大し、わずか数ヶ月で世界的大流行を引き起こした。SARS-CoV-2は、ヒト社会に侵入してきて間もないウイルスであると考えられ、ヒト-ヒト伝播がより効率的になる変異を獲得しながら世界的流行を継続させている。我々は、SARS-CoV-2のウイルス学的特性を明らかにするとともに、変異株の性質の変化を解析した。SARS-CoV-2は、主に2つの感染様式を用いる。宿主プロテアーゼのフーリンとTMPRSS2を用いて形質膜から細胞へ侵入する早期侵入経路と、エンドサイトーシスを介して別の宿主プロテアーゼであるカテプシンを用いる後期侵入経路である。われわれは、流行早期に出現したアルファ、ベータ、ガンマ、デルタなどの変異株が、早期侵入経路を効率良く利用できるように変異していることを明らかにした(成果論文 1)。一方、その後、出現したオミクロン株は、後期侵入経路を優先的に利用するように変異していた(成果論文 1)。ただし、TMPRSS2ノックアウトマウスを用いた解析によって、いずれの変異株の感染にもフーリンとTMPRSS2を用いた早期侵入経路が、生体内での感染にはより重要であることが明らかになった(成果論文 1)。これらの解析に加えて、私たちは、コロナウイルスゲノムを詳細に解析し、非正規と呼ばれる機能のないと考えられてきたウイルスRNAに、コロナウイルスの膜融合やRNA合成を抑制する機能的な短いペプチドをコードしている可能性を示した(成果論文 2)。今後、これらのペプチドの病原性発現への関与を解析していく計画である。


第64回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックが発生して1年半以上が経とうとしています。わずか約1年で有効性の高いワクチンが開発され、治療剤の開発も進んでいます。一方、SARS-CoV-2は、ヒト社会において、より伝染力の高い変異の獲得を続けており、パンデミックの収束は、まだ見えません。今後も、さらなる伝播力の増強やワクチンからの逃避、既存の流行株からの抗原性の変化などが予想されます。本研究では、光照射によって増殖が制御できる著しく安全性の高いウイルスベクターを用いて、SARS-CoV-2の増殖や抗原性を決める主要なタンパク質(スパイク(S)タンパク)について、その機能(受容体結合能、膜融合能)の変化や抗原性変異を積極的に誘導し、SARS-CoV-2の変異ポテンシャルを明らかにすることを目的にしています。今後の流行やウイルス変異を事前に予測するとともに、変異を見越した新たなワクチンの開発につながると考えています。