公益財団法人 日本呼吸器財団
COVID-19関連研究助成のご報告

COVID‐19肺炎後の肺機能低下に関わる因子の検討

研究者 東京医科歯科大学医学部附属病院 呼吸器内科・講師 立石 知也 先生

研究成果

COVID-19は世界で流行し現在も感染者数は増加の一途を辿っている.感染者数の増加に伴い,後遺症を訴える症例も増え社会問題となっている.世界では既に様々な後遺症の報告がされているが,国内において入院を要したCOVID-19患者の罹患後の長期的な後遺症や,症状が遷延する背景因子,健康状態は不明な点が多く,多施設での研究は報告が限られている.そこで本研究では入院を要したCOVID-19患者の発症6ヵ月後の後遺症の実態と,その低下に関与する因子を解明することを目的とした.2020年4月~2021年12月の期間で本学および12の関連施設で退院後の後遺症外来を設置し,問診,胸部CT,呼吸機能検査,SF-36などを行い,後遺症の経過とその背景因子を解析した.
198名の外来患者を対象とした.51名がなんらかの後遺症状を訴え,そのうち咳嗽や呼吸困難などの呼吸器症状を訴える症例が多かった.発症時の喫煙歴(OR 3.77, 95% CI 1.21-11.80)と入院時の挿管実施の有無(OR 3.15, 95% CI 3.15-11.80)が症状遷延の因子であった.また,198名の対象患者のうち,SF-36に回答した症例(n=74)を解析したところ,8つの下位尺度因子では5/8項目で国民の標準値(50点)を下回り,一定数の症例で身体機能や精神機能が低下していた.コンポーネントスコアでは,Role/Social Component score (3RCS)が最も低下し,罹患後6ヵ月が経過しても社会機能の低下を認める症例が多かった.
あわせて後遺症を発症した症例におけるサイトカインの検討をmultiplex assay kitを用いて行っている。現在のところ急性期に血球減少を来した症例において3か月後の血清でサイトカインの値が異常値を示す傾向があり、これが後遺症状に関連する可能性を考えている。


第63回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

COVID-19では、急性期の死亡率が問題となっていますが、最近では感染後の後遺症の報告があり、労作時呼吸困難、全身倦怠感、関節痛などの症状に悩まれる患者さんが数多くいることがわかってきました。私たちの病院においてもウイルスが陰性化して退院したのちもレントゲンやCTにおいて陰影が残存する患者さんがいらっしゃいます。このような症状残存の原因は現在のところ分かっておりません。私たちの病院ではこれらの症状に対して対症療法を行っておりますが、予防や早期治療のために、これらの後遺症に関連する因子が初期から予測できればと考えています。今回助成を頂いた研究では、ご同意いただいた患者さんより臨床データや血液サンプルを集め、これらのデータから後遺症の予測因子を探索したいと考えています。すでに当院を含め20施設ほどで登録を行っており、できるだけ早く、有用なデータを現場に届けたいと考えています。